イントロダクション

2008年、NY 市イースト川に突如、4つの巨大な滝が現れた。
滝をつくった男の名は、今世界が注目する現代美術家オラファー・エリアソン。

彼はなぜ滝をつくり、どう作品を生みつづけているのか?金沢21世紀美術館をはじめとする過去の出展作品、ドイツの制作スタジオ、さらには世界中を駆け巡る彼の姿を追いながら、その答えを解き明かす。
オラファーがスクリーン越しに行う視覚的実験や、日本にほぼ文献がない芸術論は必見。「視覚と知覚」、「理論と哲学」、「主観と客観」―さまざまな概念の境界を越えて展開される彼の理論は、芸術論にとどまらず、人間の本能までも揺さぶるに違いない。時間と空間ですべての観客を巻き込む、77分間の知的エンターテイメント。あなたには何が見えるだろうか?

「僕は誠実に責任感を持って、世界と対峙したいと思っている。 何かを訴える作品を作りたい」

現代アート作家として世界的に有名になったオラファーの日常は、多忙を極める。ある日、まだ夜が明けないうちにデンマークのヘレラップにある自宅を出ると、朝一番の国際線でベルリンの個人スタジオへ向かった。そこでは、多数の制作スタッフとともに、複数のアート作品が同時進行で製作されていた。

「スタジオは“なぜ?”を歓迎すべき場だと思う。たとえ成果が何もなかったとしても、疑問が未知の世界へ導くこともある」

「僕は作品制作を機械作りに例えるんだ。作品は現象を作り出す“装置”なんだ」スタジオでの制作プロセスは、実に独創的だ。科学的なアプローチに基づき、まるで理科実験のような試行錯誤を地道に繰り返し、スタッフ全員で作品をブラッシュアップしていく。その様子は、アート工房というより、時に町工場のようであり、建設現場のようでもある。

「アートは世界を変える一手段であり、人は世界を変えることができる」

映画では、彼のいくつかの代表作にも触れていく。例えば、テートモダンでの『ウェザープロジェクト』。巨大な太陽が至近距離で鑑賞者の眼前で輝く作品は、否が応でも鑑賞者の内側に眠る様々な感覚を呼び覚ます。また、MOMAでの『I only se things when they move』。工夫を凝らした装置を通した光が、鑑賞者の立ち位置や動きによって変幻自在なきらめきを発するインスタレーションだ。さらに、金沢21世紀美術館でも披露された『あなたが出会うとき』。天井から照らされた様々なライトが部屋全体に満たされたスモークに反射し、幻想的な風景を作り出す。「僕は作品を通じて、鑑賞者に対し既成概念と違う視点を持つよう訴えたいんだ。」いずれの作品においても、鑑賞者は、作品と一体化していく中で、自分を取り巻く世界が変容していくような感覚にさせられる。

オラファーが当時ライフワークとして取り組んでいるのが、彼の生まれ故郷、アイスランドにおけるフィールドワークだ。「アイスランドには望郷の想いはない」と、これまで自身の生まれ故郷についてはあまり多くを語ってこなかった。しかし、荒々しいアイスランドの大自然からは、確実に作品への着想を得られているようである。
この日は、ムーランと呼ばれる永久氷河の竪穴での危険な撮影に臨んでいた。撮影用に調達した四駆を竪穴の縁ギリギリまで寄せ、穴に身を乗り出すように写真を撮る様子は、見ているこちらまでハラハラさせられる。自分の身を自然に預け、対話を繰り返すことで、空間に広がる現象や風景、自然の知識を自らの心に深く刻み込んでいく。この経験が、スタジオでの製作物や、アイデアの源泉に繋がっているのだ。

「本物か否かを決めるのは誰か? 僕はこの問いへの答えは鑑賞者に委ねたい」

オラファーの作品と対峙する時、鑑賞者は否応なく彼の作品の一部にさせられる。敢えてインスタレーションの仕掛けを可視化することで、作品の中に置かれた鑑賞者はまるで製作しているような感覚になっていく。それはこの映画の鑑賞者も例外ではない。

 

監督:ヘンリク・ルンデ、ヤコブ・イェルゲンセン 出演:オラファー・エリアソン
2009 / デンマーク / 英語、デンマーク語 / 16:9 / ステレオ / カラー / 77分 / 原題:Olafur Eliasson : Space is Process
Copyright: Jacob Jørgensen, JJFilm, Denmark

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